指針のこと

 
 私たちの取り組むべき課題は明確です。
「歯科医療のもつ再発のリスクのなかで、 いかに生涯に渡る健康を提供するか?  」
これを実現するための6つの指針です。
 

1 患者さんごとの健康

 
健康は、治療のゴールと言えます。そうである以上、健康とは何か?を答えられなければ話になりません。

私たちは、医学的に病気がないこと=健康とは考えていません。
つまり、歯科医師の視点だけでで健康か不健康かは決められないのです。

これは、超高齢社会、価値観の多様化した社会において、非常に重要なことだと考えています。歯科医師が上から目線で、不健康ですねという時代は終わらせなければなりません。
 
私たちは、患者さんに『あなたは、今健康ですか?』と聞いて、『はい。健康です。』とお答えになれば、今、健康であると考えます。 
「今、健康かどうかは患者さんが決めること」と、当院では定義しています。
しかし、 その健康が、今後も続くのかどうかは、歯科の専門家である私たちの方がわかるかもしれないと考えています。 
よって、患者さんの考えを尊重するのは当然のことで、それを踏まえて私たちの考えをお伝えし、どのように健康を維持していくかを一緒に 考えていくことが、長期的に良い結果を生むと考えています
 

2 治療すべきかどうか?を思考する。

  
歯科治療が完全にもとの状態に戻すものであれば、何も考えずに全て治療しますが、実際は違います。 
 ・虫歯が治った
 ・風邪が治った

 ・がんが治った 
どれも「治った」です。どの「治った」も同じ意味でしょうか?

私は、治療を考えるとき、 


1  治療の後遺症はあるか? (元に戻る?)
2  治療しなければ進行するのか?
3  治療せずに悪化した時にどうなるのか? 

この3つが重要だと思っています。

大きくなった虫歯に関して言えば、

1  治療によって健康な歯を削らなければならないこともある。詰め物や被せものは、治療直後から劣化がはじまる。
2  治療しなければ進行し続けるばあいもあるが、進行しないこともある。
3  痛みが出て、最終的に歯を失うこともある。 


これを踏まえて、治療すべきかどうか?なのです。この時の判断に『治療のゴール=患者さんごとの健康』が大切になってくるのです。同じ虫歯治療でも、このような思考のもとでの治療と、虫歯は 絶対に治療!いう短絡的な治療は全く違うと考えています。 

  

3 治療するならば出来る限りの精度を。

 
歯科治療が不確実だからこそ、極力長持ちさせる治療は何か?を模索していかなければなりません。 
現在、根拠に基づいた医療(evidence-based medicine)が重視され ています。 
簡単に言えば、科学的に最も信頼性の高い治療法を術者の臨床的技 能と患者の価値観、患者の状況をふまえて、選択しましょうとい うこと(※)です。 
当院でもこれを常に念頭に置いて診療を行っています。 
また、当院では、診療台全てにマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を備え、ほぼ全ての治療でマイクロスコープを利用しています。効果を表現することは避けますが、1998年から、 北米の歯の根の治療の専門医教育において、顕微鏡の使用が必須になって います。 

※Sharon E Straus: Evidence-Based Medicine 3rd edition How to Practice and Teach itより  

  

4 原因を取り除き続ける。=歯科衛生士の重要性

 
虫歯は、細菌が歯に感染し、歯が破壊される病気です。
歯周病は、細菌が歯肉に感染し、骨が破壊される病気です。 
虫歯も歯周病も感染症といえます。 

よって、歯科医院は、主に感染症を扱う機関なのです。
感染症を扱う機関であるならば、いかに感染から患者さんを守るかというのが一番大事な仕事であるべきです。 

それを担うのが『歯科衛生士』です。 

歯科医師が主に「既に破壊された組織の修復=対症療法」をする仕事 とすれば、
歯科衛生士は「根本原因を取り除く=原因療法」のが仕事です。 

 当院では、歯科衛生士の一番大切な仕事を、長期的に口腔感染症から患者さんを守ることだと考え、そのような仕組みづくりをしています。

 

5 再発した時の対策を。

 
3で、「根拠に基づいた医療(EBM)」の話が出ました

しかし、それだけで生涯に渡る健康が提供できるといえるのか?という慎重さが非常に重要です。 

科学的に最も信頼性の高い治療というと何だか素晴らしいように思 えます。
例えば、「治療法Aに比べて治療法Bの ほうが、長持ちする可能性が高い」ということです。

患者さんによっては、逆になることもありえますし、そもそも、完治ではなく、長持ちなのです。 
もしかしたら、「科学的に最も信頼性が高い治療=一番よい治療」は 長持ちするかもしれないけれども、万が一ダメになった時に、一気に咬 めなくなる治療だったり、リカバリーが非常に苦痛な治療になる可能性 がある治療かもしれません。 

これが、科学と歯科治療の限界です。 

であるならば、トラブルが起きた時に、患者さんの負担が最小限で、 かつ、お口の機能の低下が最小限になるように準備をしなければならな いはずです。 
  

6 長期的な関係性を。

 
いままで5つの指針を書きましたが、結局、長いお付き合いをして頂 けなければ、私たちの責任を果たせません。 
そのための第一歩が、ここまで書いた内容を患者さんにお伝えすることのなかもしれません。 
具体的な診療体制として、万が一、長期的に拝見させて頂いている患者さんが、通院が難しくなった場合の往診体制を整えていきます。